バックステージパス:Josh McDermott博士に聞く、Sonic Scienceの舞台裏
あらゆる業界の広告主に役立つインサイト、ヒント、秘訣が盛りだくさんのSonic Science 2.0が、先日公開されました。今回の「バックステージパス」の最新版では、その調査のアドバイザーを務めたJosh McDermott博士に話を聞いてみました。
今月初め、SpotifyはSonic ScienceのVol. 2を公開しました。これは、デジタル音声が人間の体にもたらす影響について、その微細な生理学的効果から、瞬時に感情を盛り上げる力まで、さまざまな生体情報を掘り下げたレポートです。
この調査では、広告主の役に立つインサイトや、Spotifyでデジタル音声広告のキャンペーンの効果を最大限に高めるクリエイティブのヒントを多く得ることができました。
今回はさらに専門的な視点に切り込むため、Sonic ScienceのアドバイザーJosh McDermott博士に話を聞き、前例のないこの調査について、その内容や方法、実施の理由を教えてもらいました。
1. McDermott博士、よろしくお願いします。まず、博士の経歴と、Sonic Scienceに関わることになったいきさつを教えてください。
わたしは、人間の聴覚について心理学、工学、神経科学を組み合わせた観点から研究しており、人間の聴覚能力を測定し理解するための実験を行っています。また、聴覚のサポートに役立つ、人間の聴覚能力の一部を再現した機械聴覚システムを開発しています。そのため、音や聴覚、音楽に関して大いに興味があるんです。
2021年に、Spotifyから広告調査のアドバイザーの依頼を受けました。調査の内容が、生活におけるオーディオの役割や、人間が認識したり記憶したりするオーディオの特徴、そして音が感情に及ぼす影響などについてだったため、興味をそそられました。パートナーシップは自然な形で進み、とても楽しんでいます。
2. Sonic Scienceの背景にある考えを教えてください。調査の目的や、Vol. 1と2の違いは何ですか?
この研究の大きな目的は、デジタル音声が日常生活で担う役割について実生活で調査することでした。Sonic Science Vol. 1を含む広告調査の多くは、実験室環境で実施されます。必然的に、測定結果が通常の状況下での反応を示しているかどうかを判断することが難しくなるのです。しかしSonic Science Vol. 2の調査は、オーディオやデジタル音声広告に対する人間の反応を、可能な限り現実的な状況下で測定できるよう計画されました。
この調査では、デジタル音声を聴いているときの人々の行動や感情の変化、リスナーが自分の活動に基づいて再生するコンテンツを選択しているかどうか、その活動中に耳にした広告を覚えているかどうかを理解したいと考えました。また、オンラインでの継続的なエンゲージメントの尺度として、生理反応を測定することも目的の一つでした。
3. 実際の調査方法について詳しく教えてください。調査結果が正確で、グローバルな消費者ベースを反映しているといえる根拠はなんですか?
調査の参加者は、米国と英国に住むSpotifyのアクティブユーザーです。参加者には、Spotifyを再生するときに手のひらセンサーを装着し、それぞれのリスニングセッションの前後に簡単なアンケートに答えてもらいました。広告の配信方法は通常通りでしたが、広告の一部は社内で制作されており、架空のブランドがフィーチャーされました。これは、リスナーの広告想起が、別の場面で聴いた情報ではなく、リスニングセッションによってもたらされた効果であることを確認するためです。これらの点を除けば、参加者には制限を加えず、通常と同じ生活を送ってもらいました。
この調査を通して、現代の人間の生活におけるオーディオの役割を現実的かつとても包括的に把握できました。ほかの国からの参加者は登録されていないものの、主な定性的結論はかなり幅広いものとなっています。
4. 今年のレポートの内容を、かいつまんで教えてください。主な着眼点と、広告主のトップトレンドは何ですか?
リスナーは、食事、通勤、勉強、仕事、運動など、幅広い種類の活動を行いながらデジタル音声を聴いていることがわかりました。また、活動の種類にかかわらず、Spotifyを聴くことによってリスナーの気分が向上し、生理学的に覚醒されることもわかりました。リスナーはリスニング体験をカスタマイズしており、そのときの活動に応じたさまざまなタイプのコンテンツを聴く傾向にあります。それでも、調査された主要な活動のすべてにおいて、広告を想起していました。
5. 一番驚かされたインサイトを教えてください。
リスナーが行う活動と再生するオーディオの関連性を発見できたのは、とても興味深いことでした。長い間、多くの人々がこの関連性を予想していましたが、現実的な状況下で大規模な調査を行うことができずにいました。Spotifyとの研究は、多数のリスナーが実生活でさまざまな活動を行いながら聴いているコンテンツを、数週間にわたって調査できたという点で大変ユニークです。そのため、前例のないデータセットから、人間の活動とオーディオ属性のすばらしい関係性を発見できたのです。たとえば、勉強中のリスナーは、インストゥルメンタル感が高く (ボーカルが少ない)、アコースティック感のある (エレクトロニックエフェクトが少ない) 音楽を聴く可能性が高まります。対照的に、ワークアウトやウォーキング、パーティーへの参加など、エネルギッシュな活動を行っているリスナーは、ダンス感が高くアコースティック感の低い音楽を選択することが多くなります。
この結果は、リスナーが自分の活動に基づいてオーディオコンテンツを選択している証拠となっています。音楽やその他のデジタル音声は、生活の中で重要な機能的役割を果たしているのです。
6. Sonic Scienceによって、デジタル音声が人間の感情や行動に与える影響が明らかになりましたが、調査結果はそれ以上の事実を示しています。このレポートから、広告主はほかにどんな情報が得られますか?
この調査によって、デジタル音声広告は、リスナーが日常の活動を行っている現実的な状況下でも効果を発揮することがわかりました。Spotifyで配信された広告を聴いたリスナーは、広告で紹介されるブランドを記憶しています。
加えてこの調査では、従来のメディアとの違いとして、オーディオのストリーミングではリスナー自身がリスニング体験をカスタマイズできることが明らかになりました。つまり、このカスタマイズ機能を活かして、リスナーの活動や再生コンテンツに適した広告を配信することができるのです。わたしは、このビジネス機会にはまだまだ活用の余地があると感じています。
7. 最後にお尋ねします。普段の生活で、どんな音楽やポッドキャストをどんな場面で聴いていますか?お気に入りのデジタル音声を聴いているときの感情の変化に基づいて、博士が積極的に広告を聴きやすくなる状況はありますか?
個人的には、自分にとってより関連性の高い広告を聴きたいと思います。リスニング体験を妨げない、自分の好みに合った広告があればいいなと感じています。わたしは音楽が大好きで、ソウルやディスコ・ハウス、ジャズなどのジャンルをよく聴きます。Spotifyでは、お気に入りの楽曲を数えきれないほどキュレートしています。プレイリストやリスナーの生活にさらに寄り添った広告が配信されるようになることを心待ちにしています。リラックスできるコンテンツを聴いてくつろいでいるときには、その雰囲気に合うソフトな音楽を使った、落ち着いた広告を受け入れやすく感じると思います。
Sonic Scienceの調査でワクワクしているのは、オーディオストリーミングの潜在的な力を活用して、広告をすばらしいリスニング体験の一部に組み込めるということです。同時に、リスナーにとってより有益な広告を配信し、その効果を高めることもできるのです。