お客様事例

ファンダムの熱で売上数倍に。「声優×音声広告」が秘める可能性 (前編)

声優を起用した音声広告により、予想を大きく上回る広告効果を生んだ事例があります。音響機器メーカー・オーディオテクニカのノイズキャンセリングヘッドフォン「ATH-ANC300TW」の音声広告です。出稿後の調査では、「認知度」「好意度」「購入意向」の全項目で、驚異的な数字が測定されました。その要因はどこにあったのかを、同広告を手掛けたトライバルメディアハウス・高野修平さんに聞きました。

【プロフィール】 [ja-JP] 高野様 Headshot

デジタルマーケティングに強みをもつマーケティング会社・
トライバルメディアハウスマーケティングレーベル「Modern Age」
事業部レーベルヘッド/事業部部長
高野修平

マーケティング会社・トライバルメディアハウス内に、日本初のブランドマーケティングと音楽マーケティングを融合させたマーケティングレーベル「Modern Age」を設立。著書に『始まりを告げる《世界標準》音楽マーケティング』など。

人間は音に敏感で、音から大きな影響を受けている

──まずは「ATH-ANC300TW」の音声広告をSpotifyに出稿した経緯を教えてください。

高野:ベースにあったのが、Modern Ageではもともと「聴覚を活用したマーケティング」に、大きな可能性を見出していたことです。

──どのような可能性でしょう?

高野:まず聴覚からの情報には、「記憶に残りやすい」という特徴があります。少し脳科学的な話になりますが、音声情報は耳から入った後、脳の大脳辺縁系に取り込まれます。そして大脳辺縁系の両端には、記憶に深く関わる扁桃体と海馬があるため、記憶に残りやすい。特に音声は、一度覚えたら忘れない「長期記憶」として記録されやすいといわれています。

たとえばCMで流れるちょっとした歌やサウンドロゴって、何年経ってもなぜか覚えていて、普通に歌えたりしますよね。CMを細かく見ていくと、実はビジュアルよりも音を重視したクリエイティブも、数多くあります。

これだけ情報量が多い現代にあって、目指すべきは認知もありますが、究極的には「想起」です。思い出してもらえるか。そのためには記憶されねばならない。そのときに音声の特性を活用したマーケティングが、今後どんどん有効になるだろうと感じています。オーディオテクニカさんも、音にまつわる企業だからこそ、当時いち早く興味を持ってくださり、そこから今回の音声広告の取り組みに繋がっていきました。

──出稿メディアとして、Spotifyを選んだ理由は?

高野:Spotifyは音楽と並行し、ポッドキャストなど音声コンテンツにも力を入れています。また単純に音楽をユーザーに届けるBtoCモデルだけでなく、ビジネスに活用できるBtoBモデルも当初から強く想定されていました。それはつまりマーケティングを前提に考えられているプラットフォームだということです。

やるからには効果を得られなければならない。それを検証しなければならない。そして、 ターゲットに合致していなければならない。そうしたことをふまえて、Spotifyをチョイスさせていただきました。

──「ATH-ANC300TW」の音声広告では、人気声優の内田真礼さん・内田雄馬さん姉弟が出演しています。声優を起用することになった経緯を教えてください。

高野:音声がもともと持つ力に加え、エンターテインメントの力も利用できたら、それこそ強大なパワーになるのではないかと考えました。そこで挙がったのが、声優です。とりわけ私たちが注目したのが、「ファンダム」でした。

ファンに「ありがとう」と言われる広告

高野:ファンダムとは、熱狂的なファン層や、彼らが生み出す文化のことを指します。要は、ファンよりもっと深い層で、その対象がなくては生きていけないというレベルで身を捧げている人たちですね。一番わかりやすいのが、K-POPのファンダムかもしれません。彼らはコンテンツを購入するだけでなく、情報を拡散し、さらには二次創作物を生み出したりと、大きな熱量や行動力を備えています。

もちろんファンダムはK-POPだけでなく、さまざまなエンターテインメントに付随します。むしろファンダムが存在しない限り、エンターテインメントは成り立たないともいえるでしょう。

そして声優の世界にも、強力なファンダムが存在します。そこでエンターテインメントの力を活かしつつ、今回のマーケティングにマッチするものにし、かつ熱烈なファンダムにも届けられれば、記憶されながらさらに広がりを生み出すというような、ものすごいパワーが生み出せるのではと考えたんです。

そこで声優の中でも、ファンダムの熱量の高さやフォロワー数、ターゲット層のリンクぶり、商材との相性などをふまえ、内田姉弟にアサインさせていただきました。

──クリエイティブの制作にあたっては、何をポイントに置きましたか?

高野:特に心がけたのが、局所的熱狂を生み出すことと、ファンに喜んでもらえる内容にすることです。要は内田真礼さん・内田雄馬さんのファンに、「オーディオテクニカさん、ありがとう」と言ってもらえることを目指すというものですね。

──ファンに「喜んでもらう」「ありがとうと言ってもらう」とは、具体的にどういうことですか?

高野:「ありがとう」と言ってもらうには、広告というだけでなく、ファンにとっては内田姉弟の新しい声を聞ける「コンテンツ」である必要があります。まずオーディオテクニカさんも含めた僕らが内田姉妹をリスペクトしていることが前提です。「フォロワー数が多いから」「人気があるから」だけでは、従来のイケてないインフルエンサーマーケティング と変わりません。それではダメなのです。内田姉弟のこれまでの活動の文脈をふまえ、愛を持って、そのうえでファンの方々に「わかってるな」とか「そうきたか」と思ってもらうことが重要だと考えました。

そうしてできあがったのが、2人が「ATH-ANC300TW」を交えて約30秒間の会話を繰り広げる、2パターンの音声広告です。今回の2人は「先輩と後輩」「幼馴染」という関係性の役柄でしたが、ファンの方々からすれば、まずはそこが新鮮だったのではないでしょうか。そもそも企業案件で2人が共演することはこれまでほぼなかったので、姉弟がCMで掛け合っていること自体が、ファンには喜んでもらえる要因だったのかなと思います。

また2人は歌手でもあり、日常的にヘッドフォンに慣れ親しんでいるという文脈も意識しました。そうした文脈をきちんととらえるために、本企画はModern Ageの中でもアニメや声優に心を奪われているファンダムの一人である女性プランナーが、マーケティング 視点とファン視点の両面から情熱と冷静さを持ってチーム内でプランニングし、アサインからクリエイティブまでを考えました。

──実際にSNSなどでは、どんな反応が挙がりましたか?

高野:まずSpotifyで音声広告を聞いた人たちからは、「え、何これ、どういうこと!?」「姉弟でそろえるなんてずるいですよオーディオテクニカさん…」「こんなことやっちゃうんだ!」「最高です!」といった声がソーシャル上で挙がりました。その後、少し後追いで内田姉弟がそれぞれ「CMに出演中です」という投稿をしたことで、情報がファンの間でより大きく広がっていきました。

「売れる」「愛される」の両方を満たした

──そうしたメディア横断型のプロモーションもあり、Spotify出稿後の調査では、広告接触者が非広告接触者を製品認知度で65ポイント、好意度で55ポイント、購入意向で58ポイント上回るという結果になりました。とりわけアニメファンの間では、広告接触者が非広告接触者を製品認知度で85ポイント、好意度で71ポイント、購入意向で76ポイントも上回りました。この結果について、どう捉えていますか?

[ja-JP] News and Insights / Audio Technica Graph

高野: まずファンの方々に喜んでもらえたかなという想いと、オーディオテクニカさんとファンをつなぐ架け橋になれたかなというのが思ったことでした。 リサーチ会社の方にいたっては、この数字を見て「おかしい、こんな高い数字が出るはずがない」と再調査したそうですね。で、やはり同じ結果が出たと。

当然マーケティングなので売れてほしいのは山々ですが、売れるだけでは不十分で、今の時代は製品やブランド自体が愛されなくてはいけません。でも、その両方を満たすことが、とても難しい。いわば“究極のお題”なんです。にもかかわらず、今回はそれもみごとに達成できました。

ちなみに出稿期間中の「ATH-ANC300TW」の売上については、「プロモーションを行っていない時よりも商品の売れ行きがかなり良かった」と伺っています。また、商品の価格が2万5000円近くすることもふまえると、ファンダムがマーケティングファネル(※)の常識を超える「好意度」「推奨意向」「購買行動」を示すことも体感できました。
※顧客が認知から購買にいたるまでの心理過程をモデル化したもの

──数字に関すること以外で、何か気付きや収穫はありましたか?

高野:声優さんたちのファンダムの強大さをありありと実感できました。

また音声広告と声優の組み合わせは、音とは関係ない他のいろいろな製品やサービスのマーケティングにも、同じように活かせると感じました。実際に弊社ではその後、たとえばクレジットカード×声優といった組み合わせのマーケティング施策もいろいろ展開し、今回と同じように良い結果を得ています。

そして今回のような取り組みは、声優さんの持つポテンシャルをプロモーションにどう活かせるかの、大きな解の1つになるのかなと。売れているという理由だけで広告に起用するのではなく、商材との親和性や声優自身が持つ背景や文脈を活かしながら、リスペクトを持って企画を立案する。そうしてファンダムが「ありがとう」と思ってもらえるようなコンテンツを作り、それがメディア横断で広がり、商品やサービスに大きく波及する。それはいうなれば、「クライアント・声優・ファンの3者がハッピーになる形」です。

実はその後、声優を起用したオーディオテクニカの音声広告は、さらなる展開に進みました。以下の後編では、6人の声優を起用した画期的な広告キャンペーンの内幕に迫ります。

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